平成20年度

『体験学習法』ワークショップセミナー

森 森
九州農政局/農村コミュニティ再生・活性化支援事業

森
 
●開催日:平成20年12月10日〜12日
●報告者:壹岐博彦


【おもな日程】
12月10日(1日目)
 開会、開講式&オリエンテーション
講義@「体験学習法」とは
ワークショップ@「体験学習法」を体験・体感する
講義A&ワークショップA

12月11日(2日目)

 講義B「体験学習法」の技術について
ワークショップB「体験学習法」ケース・スタディ
ワークショップC
「体験学習法」の教育プロフラムヘの導入と効果 プロフラム作リ実習
12月12日(3日目)
 ワークシヨップD
「体験学習法」をどのように活用していくか?
まとめ・ふリかえリ・わかちあい
閉講式



12月10日【1日目
ワークショップ@「体験学習法」を体験・体感する


◆自己紹介の体験活動
・A4の用紙を4つに区切り、@名前および所属、A好きなこと(好きな生き物)/嫌いなこと、B資格や実際に行っている活動、得意分野、C研修に期待することと、それがもし叶ったとした場合の理由、を順に記入
・なるべく初めて出会った参加者(複数)で集まって記入した内容をもとに自己紹介し合う
・全項目を埋めてから行うのではなく、@とAを記入後と、Bを記入後、最後にCを記入後という具合に、参加者にストレスを感じさせず、一方で期待感を持たせながら自己紹介をし合うという形をとっていた。

活動を続けるうちに新しい集団を作りにくくなるが、グループをつくる相手を探し出すという活動自体が、もう一つの活動になっており、これも一つの仕掛けのように感じた。グループを作る際に、自分からグループを探そうとしたり、逆にグループから誘われたりと、全体で活発なやりとり(コミュニケーション)が行われていた。


◆「蜘蛛」の絵
○個人で蜘蛛の絵を描いた後、4つのグループに分かれそれぞれで絵を見合った。
○絵を見ながら蜘蛛の特徴等を話し合い、蜘蛛の絵を完成後、各グループの蜘蛛の完成度を競った。

印象的だったのが、各グループを評価する際、講師は絵に対して、うまい・下手、あるいはよい・悪いというように絵を比較するのではなく、あくまでも蜘蛛の形が特徴とともにしっかり描かれているかという点を評価していたことである。ある意味グループへの気遣いであり大事な配慮であると感じた。
講師から蜘蛛の生態について専門用語も交えて説明があり、合わせて体験活動の実践者として、『蜘蛛と昆虫の区別』ができるくらいの知識は持っていてほしいという話があった。実践者にとって生き物や自然のことなど専門的な知識を有することは困難であるが、子どもたちに対し簡単に紹介・説明できるくらいの知識は必要であるとも話された。なお、説明の際、子どもにわかるようにやさしい表現やかみ砕いたわかりやすい言い方が重要であるとも話されていた。


◆漢字で「みる」を書く。
○同じ「みる」でもその意味や目的によって漢字が違うことを確認し合った。
○「みる」の中で大事なのが「観る」であり、単に「見る」ではないところが重要であるという指摘があった。

蜘蛛の絵をもとにした活動のふりかえりをとおして、自分たちが普段の自然や生きものの観察がいかに不十分であるか、また、意外に見逃していることがほかにもあるのでは、と自分の実践を見直す機会を与えてもらった思いである。先述の「観る」の重要性をあらためて感じた。
講師からは、蜘蛛の絵を通したアクティビティの次の展開として、うまく描けなかった蜘蛛を実際にフィールドに出て観察する、またワークショップ形式で話し合いを持つといったことが考えられるとアドバイスがあった。


◆戸外での体験活動:「色合わせ」
○まず、自然界の色と人工色(カードの色)の違いや特徴について質問されたり説明を聞いたりした。
○色についての興味・感心が高まったところで、先の活動で一緒だったグループで体験に移った。
○選んできた自然のものが最もカードの色に近いと判断された(講師の心を揺さぶった)グループには点数(1点)を与えられ、グループ間で競い合うことになった。

活動しながらカードと同じ色を見つけるのは確かに難しかった。光の当たり方で微妙に色が変化したり個人の感じ方で色のとらえ方も違っていたりした。グループ内で色を選び出すための作業(やりとり)をとおして、グループ内のコミュニケーションも活発になっていた。また点数を競うことになり、アピール合戦が大盛り上がりだった。選んできたものを単純に見せ合うだけでなく、勝負の要素を取り入れたことで、活動へのやる気がぐっと引き出され、アクティビティのおもしろさが増したように思う。


戸外での体験活動:「樹のプレゼント」
○二人一組になり、お互いに樹のプレゼントをし合うというもの。
○活動する前に選ぶ範囲を示し、その中の樹を選ぶことを確認後、活動に入った。
○一方が目かくしをし、もう片方がプレゼントしたい樹を探しながら歩き回り、樹のある場所まで相手を誘導する。
○指導者の合図を聞いた直後に、樹の前に相手を立たせ、視覚以外の体(五感)を使って樹のいろいろな特徴をつかんでもらう。
○指導者の合図を待って出発した地点まで戻ってくる。
・行き帰りの歩くコースを違えることで、探すおもしろさが増える。
(あまり複雑にすると、探し出す相手も困るので加減が必要)
○目かくしをはずした相手はプレゼントされた樹を探しに行く。
○樹を見事当てた場合は、プレゼントした人は頭上で両手のわっかをつくり「正解」を知らせ拍手する。もし樹から遠い場合や全く違う方向に行っている場合は、「遠い」とか「方向が違う、離れている」などの短い言葉を相手に伝え、軌道修正してあげる。

このアクティビティでは、選ぶ相手に抱いた気持ちや感情、また選ぶ人自身の性格等、個性が出る活動でもあると感じた。なお、今回のこのアクティビティは誘導する際、全く相手に話しかけないという条件で行った。一般的には、相手を誘導する際、相手が安心して歩けるよう誘導の仕方を選ばせたり声かけをして足もとへの注意を促したりして、相手とのコミュニケーションをとる。しかし今回の体験を通じてこういう形でもやれるということを実感し、ノンバーバル(非言語)による体験の新鮮さ、おもしろさも感じることができた。意外な発見である。



ワークショップA

ブロック(積木)課題
○見えない別な場所にいろいろな色・形で組み立てられたブロックがあり、それと同じものを自分たちのグループ内で完成させるという課題だった。
○参加者を2つのグループに分け、それぞれで課題達成のための方針を立て、方法を話し合ったり、役割を分担したり、自他の力を出し合えるよう作業を進めた。
ブロック課題



まとめ
体験学習法について(概念)の話の中で、「体験活動においては(当然であろうが)同じ体験をしても同じように感じられない。人に伝える立場にある人(自然体験活動等の実践者)にとって最も危険なのは、『思い込み』である」という話があった。また、グループで活動すること(グループワーク的な取組)は望ましいことであり、その活動を通じてお互い自分との違いを認め合える。それは相手を知ることにもなる。他の人の気づきに気づくことは新たな気づきにつながる。これがシェアするということである。これらのことを体験学習法の流れでみていくと、次のようなキーワードであらわすことができる。 Experience(やってみる、体験) → dentify(みる、指摘する、体験したことにこだわる) → Analyse(考える、分析) → Hypothesize(次を考える、まとめる、概念化)




12月11日【2日目】
「体験学習法」という技術及びワークショップB
「体験学習法」のケース・スタディ


◆PA(プロジェクト・アドベンチャー)の体験 体験前にPAを体験するうえで大事な基本となる考え方について話があり、その中で「チャレンジバイチョイス」、「フルバリューコントラクト」という言葉の紹介と説明があった。この後、PA体験ができる野外施設のある所まで移動。この時、早速「イタリアンゴルフ」というアクティビティを体験した。

「イタリアンゴルフ」
○2人一組になり、直径15センチ前後の穴の開いたリング(柔らかい素材で太い)をできるだけ距離をとって相手に投げ、もう一方の相手がキャッチ(輪の中に手を通す)し、投げた相手は、キャッチした相手のさらに先に走って受け取る。
○この一連の動作を交互に行いながら目的地(目標物)まで進んでいくというものだった(より少ない移動回数を競い合う)。


アイスブレイク1:「ペアタッグ」
○3人一組のグループをつくり距離をあけてサークル状になる。グループ内は全員手をつなぎ、その場に立っておく。
○指導者の合図と共に、鬼と逃げる相手の追いかけっこが始まり、追いかけられる相手は鬼にタッチされない内にどこかのグループの左右いずれかの人の隣りにくっつく。 ○そして、くっつかれた反対側の人は次のグループをめざしてそこから離れる(逃げ出す)。鬼からタッチされた人は鬼となり、先の動きをくり返すというものである。

運動量があり、運動の苦手な人にはなかなかつらいかもしれないが、逃げる側と鬼との駆け引きや、いつ自分が逃げ出さないといけないのかとヒヤヒヤする感覚を味わうところにこのアクティビティのおもしろさを感じた。


アイスブレイク2:「ムーンボール」
○地球儀のように世界地図の載ったミニバレーボールのような軽いボールで、全員で何回打ち合えるかを決めてトライするというアクティビティ

トライする全員で回数を決めることは全員で共通して一つの目標をめざすことになり、協力し合う気持ち、助け合いの心が芽生えるように感じた。打ち合いながら参加者たちの気持ちもほぐれ、声をかけ合ったり自主的な動きが見られたりしていた。


アクティビティ1
「ジャイアントシーソー(ホエールウオッチング)」

○大きくて広い台の上にバランスを取りながら二手に分かれて立ち、真ん中を境に、一方のメンバーたちとそっくり場所を入れ替わるというアクティビティ

ジャイアントシーソー


アクティビティ2 「ホールインワン」

○タイヤの輪の内側(ふち)に髪の毛、体はもとより衣類もふれずに、タイヤの向こう側に全員で移動するというアクティビティ
○移動しようとする側の誰か一人でもタイヤにふれるとその時点から時間が計られる。
(短時間で達成できるように全員で知恵や工夫を出しあうことが必要)
○介助する際、向こう側に移った者はタイヤにふれても構わない。
○話し合いの時間は決まっておらず、方針を立て方法を決定するまでじっくり時間をかけることができる。

ホールインワン


活動中よく声が飛び交い、いつの間にか各々の役割ができていた。全員の協力がうまくいき、全員無事に移動を完了することができた。なかなかの好タイムだった。 各アクティビティを終える中で、うまくいった、あるいはいかなかった場合の条件や問題点を話し合う場面があり、このふりかえりを通して、次のアクティビティ(課題)に挑戦する際の学びを参加者同士で共有できた。


ケース・スタディのまとめの中で
PA体験後のまとめの中で印象に残ったのが、「自分をしっかり認め、受け止めていること」と「自分自身の価値をしっかりもっておくということ」だった。これらは子どもたちの前に立つ指導者として(言わば大人として、そして親としても)絶対必要な条件であり、これがなければ子どもたちに真に伝えるべきことは伝わらないと言える。



ワークショップC
「体験学習法」の教育プロフラムヘの導入と効果、プログラム作リ実習


実習するにあたり、資料の読み合わせを各自で行った。内容は、プログラムの組み立て方の要点や実施の際の留意点等、ファシリテーターの役割や注意点等、シェアリング(わかちあい)について等であった。この後、各グループに分かれて<合意形成><課題達成>を大切にしながら話し合いを持った。
3つのグループに分かれ、それぞれ以下のプログラムを分担し、つくりあげることになった。

◆アイスブレイク→◆人と人とをつなぐ活動→◆人と人をつなぐ際の自然を介した活動

各グループとも、分担された活動で押さえるべき「ねらい」を踏まえながら活発な意見交換を行った。
ちなみに自分たちのグループは「アイスブレイク」の担当となった。このプログラムをつくるうえで押さえておくべきねらいは、
・コミュニケーションに気づく。・興味をもたせる。・コミュニケーションができる雰囲気をつくること。そして、これらのねらいに加え、・学習規範をもたせるというものだった。

できあがった「アイスブレイク」のプログラムと主な内容は、以下のとおり。
1 はじめましてジャンケン
・事前に呼ばれたい名前(私は○○になりたい)を考えてもらい名札に記入してきてもらう。
・2勝した時点で抜けてサークル(円)を順に作っていく。
2 サークルアップ(ラインナップのアレンジ版)
・干支で並ぶ(普通に言葉を発して) 誕生日で並ぶ(ノンバーバル:非言語で)
3 数あつまり
・3グループに分けるようにもっていく(あぶれた人はどこかの班に入ってもらう)
4 ジェスチャー
・はじめの1分間は、共通理解をするための話し合い、意思疎通を図る時間をとる。
・ジェスチャーの題目は「ツバメの子育て」、「カニにおびえるイノシシ」の2つ





12月12日【3日目】
ワークシヨップD「体験学習法」をどのように活用していくか?

各グループとも担当する活動のプログラムに沿って実践することになった。

アイスブレイク アイスブレイクの反省(主なもの)

○内容(種目)が多かったが、つなぎはうまくいった。
○各メンバーとも担当した部分での投げかける言葉や動作などは表情も含めてうまくできていた。ただし、自分が担当しない種目のところでの動き(関わり方)の確認が足りなかった。

人と人をつなぐ活動
「人と人とをつなぐ活動」
人と人をつなぐ際の自然を介した活動
「人と人をつなぐ際の自然を介した活動」

担当した活動が終わるたびに、以下の形式でふりかえりを行った。
○個人で反省する。 ○他グループから感想や意見・要望等を記述したものを(グループとして)受け取る。 全部の活動が終わった後、個人、他のグループから受け取った感想等をグループ内で確認し合い、それをもとにグループ内でふりかえり(反省点、改善点、気づきや発見等々)を行った。



全体のまとめ・ふリかえリ・わかちあい
セミナー全体のまとめとふりかえりのために、期日を追いながら講義および実習の内容を思い出し、セミナー全体をとおしての感想や得られたこと(学び)等を書き出す作業を行った(A41枚の両面)。わかちあいは、共に実習したグループ内で行った。一つひとつ研修内容を確かめ合い、評価の部分や感想、得られたこと(学び)等について一人ひとり発表し合った。
参加者の体験活動に対する思いや姿勢、あるいは個々の個性や持っているスキルにふれ、やる気が引き出された思いである。さらに、今後は「体験学習法」に基づき、プログラムの組み立てを慎重にていねいに行っていく必要性を感じた。